マッチングアプリを使った婚活で、「心が折れた」という経営学者がいます。
その東京都立大学大学院の高橋勅徳准教授(48)は、アプリの普及によって「欲望が暴走した」とする一方で、「人間の本音を解放するツール」とも語ります。
マッチングアプリは社会をどう変えていくのか。自身の経験を踏まえて、語ってもらいました。
「年収1千万円でも僕程度では勝ち目がない」
――マッチングアプリはいつ使っていたのですか。
「43歳の頃、研究プロジェクトが終わったこともあり、婚活を始めてみたんです。結婚相談所のサービスで、会員同士のウェブマッチングシステムを利用しました」
「始める前は正直、僕は条件的にレアなキャラなんじゃないかと思ってたんです。公立大学の先生で年収1千万円、未婚で離婚歴もなし。でも、僕程度では勝ち目がない、と思い知らされました」
――好条件ではないのでしょうか。
「婚活市場は今、巨大なデータベースとなっているのが特徴です。アプリに年齢、職業、年収、趣味、容姿などを入力し、結婚相手に望む条件を設定して、相手をピックアップする」
「そのシステムにおいてデータで比較されると、僕では勝負になりませんでした。例えば、女性側が年収1千万円の条件を入力すると、ずらりと候補者をそろえられ、次には容姿という条件を加えられる。その段階で僕なんかは切られてしまいます。これは市場ですから、1千万円という年収が女性側の条件であれば、婚活市場で収入だけで容姿の不利を克服するには、1億円くらい稼いでいないと価値は出てこないでしょうね」
――それで、高橋さん自身はマッチに至らなかったのですか。
「片っ端から申し込むショットガン方式でアプローチしたら、月に1人か2人マッチしました。しかしその後、チャット機能で『お仕事は何をしているのですか』とか『休日は何をしていますか』というやりとりをしたら、だいたい3ターンくらいで終わりました」
「お見合いで15人くらいにお会いして分かりました。相手はたいてい、休日は『ネットフリックスで海外ドラマを見ています』『カフェ巡りしています』と言いますが、具体的なドラマやカフェに話を広げようとしても、答えてくれない。僕には情報を開示してくれないのです。必要な情報を取得して、条件に満たないと判断されたら、シャットダウンされてしまうのです」
――そもそもマッチングアプリは、女性だけが選ぶシステムなのですか。
「現実を反映して、そういう傾向が生じているのかもしれません。そもそも恋愛結婚の時代では、男性の方が交際の申し込みやプロポーズをするというある種の社会規範が存在してきました。だからアプリも同じように、『男性が申し込んで、女性が選ぶ』システムになっているのでしょう」
「さらにアプリでは、女性が無料で、男性が課金するものが多い。女性は男性よりも交際人数が多い、という内閣府などのデータがあります。現実社会で女性の方が出会いのチャンスが多いのなら、市場原理で言えば、アプリでは男性がお金を払い、選択権は女性の方に多くあるのが自然です」
「欲望が際限なく増大すると、むしろ婚期が遅れるリスク」
――データベース上で「選べ…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル